ストレスチェックを実施するうえで、人事・労務担当者が最も配慮すべきポイントの一つが「高ストレス者」への事後対応です。法令に基づき適切に対象者を判定し、産業医による面接指導へとつなげるプロセスは、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐための重要なステップとなります。
本記事では、厚生労働省の指針に基づく高ストレス者の判定基準から、本人への通知、面接指導の申し出、そして産業医との連携フローまでを詳しく解説します。
ストレスチェックにおける「高ストレス者」の判定基準
厚生労働省の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」では、以下の3つの領域に関する項目の点数化によってストレスの程度を評価します。
- 仕事のストレス要因: 職場における当該従業員の心理的な負担の原因に関する項目
- 心身のストレス反応: 心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
- 周囲のサポート: 職場における他の従業員による当該従業員への支援に関する項目
※具体的な算出方法
厚生労働省(令和元年7月)が公表したマニュアルに基づいており、以下(1)及び(2)に該当する者を指します。(1)及び(2)に該当する者の割合については、概ね全体の10パーセント程度を基準とします。
(1)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
(2)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」及び「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
高ストレス者割合について、制度発足時は「全体の10パーセント程度」が基準とされてきました。しかし近年は多様な働き方の広がりもあり、より高まっているとする説もあります。
弊社・情報基盤開発がまとめた2025年の最新レポートでは全14業界中10業界で高ストレス者の割合が14%を超える結果となっており、より実情に近い数値として社内基準の参考にする必要があります。
対象者への通知から面接指導申し出までの流れ
ストレスチェックの結果は、プライバシー保護の観点から、実施者(医師や保健師等)から受検した従業員本人へ直接通知されます。この際、本人の同意なしに企業側が結果を把握することは禁じられています。
- 通知内容の確認: 通知内容には、個人のストレスの程度や高ストレスへの該当有無に加え、医師による面接指導の要否が含まれます。
- 面接指導の勧奨: 面接指導が必要と判断された対象者には、実施者から面接指導を受けるよう勧奨が行われます。
- 従業員からの申し出: 対象者が面接指導を希望する場合は、結果通知後、遅滞なく(概ね1か月以内を目安に)企業へ申し出を行います。申し出たことを理由とする不利益な取り扱いは法令で禁止されており、この申し出の書面(記録)は5年間保存する義務があります。
申し出があった場合、企業は申し出をしたことを理由とした不利益な取り扱いを行ってはならないよう法令で定められています。
※申し出窓口におけるプライバシー保護の重要性
社内の人事部門などを窓口に設定した場合、従業員が「会社に評価を下げられるのではないか」と不安に感じ、申し出をためらうケースが少なくありません。受診率を向上させるためには、外部の第三者機関を窓口にしたり、従業員が会社を通さず直接産業医へ連絡できる仕組みを整えたりするなど、プライバシーが確実に守られる体制づくりが有効です。
産業医とスムーズに連携するフロー
従業員からの申し出を受けた企業は、遅滞なく(概ね1か月以内)産業医等の医師による面接指導を実施し、事後対応を行う必要があります。
- 事前の情報提供: 企業は面接指導を行う医師に対し、対象者の労働時間、業務内容、作業環境などの勤務状況に関する情報を事前に提供します。
- 面接指導の実施: 医師は、勤務状況や心理的負担の状況、その他の心身の状況を確認し、必要な医学的指導を行います。
- 医師からの意見聴取: 面接指導後、企業は遅滞なく(遅くとも1か月以内)、就業上の措置の必要性について医師から意見を聴取します。事業者はこの意見書をストレスチェックの結果とともに5年間保管する必要があります。
- 就業上の措置の実施: 医師の判断(通常勤務、就業制限、要休業)に基づき、労働時間の短縮や作業の転換などの適切な措置を講じます。
こうした一連のフローを滞りなく進めることは、従業員のメンタルヘルス不調の重症化を未然に防ぐための重要なセーフティネットとなります。日頃から産業医と密に連携できる体制を整え、一人ひとりが安心して働き続けられる職場環境改善につなげていきましょう。
【事例】面接指導を適切に実施したH社のケース
※本内容は、一般的な課題解決のプロセスを想定したモデルケースです。
- 課題: 従業員数約150名のH社(仮称)では、ストレスチェックを実施して高ストレス者が判定されたものの、「会社に結果を知られるのではないか」「不利益な扱いを受けるのではないか」という不安から、面接指導の申し出が極端に少ない状態でした。
- 解決策: 申し出の窓口を社内の人事ではなく、社外の専門機関や産業保健スタッフに設定し、プライバシーが守られる仕組みを構築しました。また、面接指導の目的が「従業員の健康を守るための就業上の配慮」であることを事前に周知徹底しました。
- 成果: 安心して申し出ができる環境が整ったことで、対象者の面接指導受診率が向上。産業医からの意見に基づき、残業時間の制限や業務分担の見直しを早期に実施できた結果、メンタルヘルス不調による長期休職者の発生を防ぐことにつながったと考えられています。
このように、外部の専門機関を窓口として活用することは、従業員の心理的なハードルを大きく下げます。単にストレスチェックを実施して終わるのではなく、面接指導という具体的なケアへ確実につなげるうえで、プライバシーに配慮した体制づくりは非常に有効な手段といえます。
まとめ:高ストレス者対応は、制度の重要なセーフティネット
ストレスチェックにおける「高ストレス者」の判定基準や、面接指導の申し出から産業医連携までのフローについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
こうした一連の事後対応を滞りなく進めることは、従業員のメンタルヘルス不調の重症化を防ぐための最も重要なセーフティネットとなります。日頃から産業医と密に連携し、一人ひとりが安心して働き続けられる職場環境改善につなげていきましょう。