ストレスチェックの準備を終え、社内に案内を出したものの、「期日が迫ってもなかなか回答が集まらない」と受検率(回答率)の低さに悩む実務担当者は少なくありません。
厚生労働省が2018年10月に発表した「ストレスチェック制度の実施状況」によると、ストレスチェックの受検率の平均は約78.0%と報告されています。そのためまずは8割の確保が一つの目安とされますが、職場の実態をより正確に把握し、効果的な職場環境改善につなげるためには、90%以上の高い回答率を得られればより理想的と言えるでしょう。
本記事では、回答が伸び悩む原因を整理したうえで、受検を促す効果的な社内アナウンスやリマインドの具体的な手法について解説します。
ストレスチェックの回答率が低い主な原因
従業員がストレスチェックに回答しない背景には、単に忘れてしまっただけでなく、制度に対する不安を抱いているケースもあります。
主な原因としては以下の3点が挙げられます。
- 1. プライバシーや不利益な取扱いへの懸念(心理的なハードル)
従業員にとって最も心理的ハードルとなるのが、「正直に回答すると、結果が会社や上司に知られてしまうのではないか」「高ストレスと判定された場合、人事評価や配置転換で不利になるのではないか」といった誤解です。この不安が払拭されない限り、本音での回答は引き出せません。 - 2. 実施目的の不透明さ(認識のハードル)
「回答しても職場が良くなるわけではない」「ただの義務だから」と、受検の意義を見出せないケースです。制度のメリットが十分に周知されていないことが原因と考えられます。 - 3. 業務の多忙さと回答環境の問題(環境的なハードル)
日常業務に追われ、後回しにしているうちに実施期間が終了してしまうケースです。特定の業種ではさらに顕著であり、飲食業、小売業などの店舗における受検率は12.5%に留まった事例も報告されています。
回答率が低い状態のまま実施を終えてしまうと、個人の気づきの機会が失われるだけでなく、企業側にとってもデメリットが生じます。特に集団分析を行う際、回答率が低すぎるとデータの信頼性が薄れ、職場環境の正確な実態を把握することが困難になります。さらに、回答者が少なすぎる部署では個人が特定されやすくなるリスクも生じるため、プライバシー保護の観点からも一定以上の回答率を確保することが重要です。
回答率90%超えを目指す社内アナウンスの工夫
回答率を高めるための第一歩は、制度の目的を正しく伝えることです。厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」等でも推奨されている通り、事前の社内アナウンスにおいて以下のポイントを明示することが効果的と考えられています。
- 経営層からのメッセージ発信
実務担当者からのお知らせだけでなく、経営トップ自らが「従業員の健康を第一に考えていること」を伝えることで、会社としての本気度と実施意義を示します。 - プライバシー保護の徹底の明示
「個人の結果は直接本人に通知され、本人の同意なく会社が知ることはない」という仕組みを、誰もが理解できる言葉で丁寧に説明します。 - 不利益取扱いの禁止」の周知
受検しないことや高ストレス判定が出たことを理由に、人事評価等で不利益な扱いをすることは法令で禁じられている旨をはっきりと明記します。
これらの情報を、実施の1〜2週間前までに社内ポータルサイトやメール、朝礼などを活用して周知することで、従業員が安心して回答できる土台を作ることができます。透明性の高い情報開示が、結果として組織への信頼感と回答率の向上へとつながります。
効果的なリマインドのタイミングと手法
事前の案内を丁寧に行っても、日々の業務に追われて回答を忘れてしまう従業員は一定数存在します。そのため、実施期間中の適切なリマインド(再通知)が欠かせません。リマインドを行う際は、実施スケジュールに合わせた段階的なアプローチが有効とされています。
| 実施タイミング | アプローチ手法の例 | 伝えるべきメッセージのポイント |
| 実施期間の折り返し地点 (例:開始から1週間後) | 全体メール、社内掲示板 | 実施タイミングアプローチ手法の例伝えるべきメッセージのポイント実施期間の折り返し地点全体メール、社内掲示板。 |
| 締め切り3日前 | 対象者への個別メール、チャットツール | 期日が迫っていることの強調。所要時間(数分程度)を伝え、回答ハードルを下げる。 |
| 締め切り前日 | 朝礼での口頭アナウンス、管理職からの声かけ | 「皆様の声が職場改善の貴重なデータになります」という協力のお願い。 |
リマインドを行う際の注意点として、未受検者に対して受検を勧奨することは法令上認められていますが、業務命令として強要することはできません。
上記の表のように、段階を追って「協力をお願いする前向きなトーン」で発信することが、反発を招かずに回答を促すポイントとなります。
取組事例
社内アナウンスや回収の方法を工夫し、高い受検率を実現している実際の弊社サービス導入事例として、所沢交通株式会社様(運輸業・郵便業)の取り組みをご紹介します。従業員の働き方に合わせた環境整備が特徴です。
【抱えていた課題】
出退勤の時間が不規則なドライバー業務が中心であり、パソコンを使ったWEB受検の一斉案内や、メールでの一律なリマインドが難しい環境でした。
【実施した具体的な施策】
- 業務フローに組み込んだ環境整備:紙版の調査票を利用し、毎朝の出勤時に運行管理者が行うアルコールチェック等の「点呼」のタイミングに合わせて提出ボックスを設置しました。
- 経営トップからの声かけ:社長自らが「義務ではありませんが、全員やるのが好ましいです」と前置きし、受検が本人のストレスにならないよう配慮した丁寧な説明を実施しました。
- 日常的な対面での受検勧奨:出退勤が自由な業種でありながらも、「必ず管理者と顔を合わせる」という自社の仕組みを活かし、朝の挨拶の後にこまめな声かけを実施しました。
【改善の結果】
これらの複合的な取り組みの結果、同社は高い受検率を維持し、「ストレスチェック大賞」の部門別優秀賞を連続で受賞する成果を挙げています。自社の文化や働き方に合わせた無理のないオペレーションが功を奏した好例と考えられます。
【参考記事】導入事例:所沢交通株式会社
まとめ:ストレスチェックの取り組みを有意義にするために
ストレスチェックを有意義なものにするためには、高い回答率を基盤とした信頼性の高いデータの収集が欠かせません。そのためにも、より高い回答率を確保できるよう工夫されることをお勧めします。企業の風土や従業員の属性によって最適なアプローチは異なりますので、自社の働き方に合った受検環境(WEBや紙の併用など)を整えつつ、段階的なリマインドを根気よく続けてみてください。まずはプライバシー保護のルールを丁寧に伝え、従業員の不安を取り除くことが、回答率90%超えへの一番の近道となります。