メインコンテンツへ移動
コラム

メンタルヘルスの不調は“企業の損失”?コストとして把握するメリットを徹底解説

近年、企業の持続的な成長やウェルビーイングの文脈において、従業員の「メンタルヘルス」は重要な経営課題として認識されるようになりました。

しかし、多くの経営層にとって、メンタルヘルス対策は「対策の効果が見えにくい」「具体的にどれくらいの損失が防げているのかわからない」費用として捉えられがちです。
 「対策の必要性をどう訴えたらいいか……」と悩む人事労務担当者は少なくありません。

実は、メンタルヘルス不調がもたらす損失は、目に見える欠勤や休職による人件費のロスだけに留まりません。出勤していながらもパフォーマンスが低下している状態や、それに伴う突然の離職・採用コストの肥大化は今や企業の課題となっています。

メンタルヘルスの不調がもたらす「見えない損失」

従業員のメンタルヘルスの不調が企業に与えるダメージは、よく氷山に例えられます。
見えている「欠勤」や「休職」の損失の下には、はるかに大きな「目に見えない損失」が隠れています。

日本国内においても、厚生労働省の調査等で、メンタルヘルス不調がもたらす経済的損失の大きさが繰り返し指摘されてきました。世界保健機関(WHO)や世界経済フォーラム(WEF)の試算によると、メンタルヘルス不調による世界経済への損失は、2030年までに年間6兆ドルに達すると予測されています。

多くの組織は、「不調者が発生してから対応する」という事後処理型のスタンスを採用しているところが多いでしょう。しかし、それでは不調のシグナルを見逃し深刻化させてしまうリスクを防ぎきれません。業務の停滞→周囲のメンバーへの負荷増加→業務調整の難しさ…とドミノ倒し的に職場環境全体へ影響は連鎖していきます。

メンタルヘルスを「福祉」や「ケア」の視点だけで捉えるのではなく、「経営資源の防衛」および「投資」の視点から定量的(数値的)に捉え直すことが、現代の企業経営において不可欠となっています。

なぜ今「損失コスト」を算出するべきなのか?

メンタルヘルスの不調による損失コストを算出することには、単なる数値の把握を超えた「戦略的メリット」があります。

メリット1:自社の「健康経営」における現在地と課題の発見

コストを算出するプロセス自体がそもそも、自社の労務管理の健康度を図るサーベイになります。

「アブセンティイズム(欠勤)が多いのか」「プレゼンティイズム(出勤時の生産性低下)が深刻なのか」「それとも離職に伴う採用コストが経営を圧迫しているのか」が可視化されるため、問題が起きている点ピンポイントの健康経営・メンタルヘルス対策を打てるようになります。

メリット2:「効果(ビフォーアフター)」の基準ができる

メンタルヘルス対策を導入した後、その施策が本当に効果を上げているかを検証する際にも、数値として算出したコストの推移が指標となります。

対策導入前後のコストを定期的に比較し「損失を防げた(=利益に貢献した)」有用性を示すことで、一過性の取り組みで終わらせない、より長期的な改善策の検討ができます。

メリット3:「説得力ある提案」が可能になる

人事労務や産業保健の現場が「メンタルヘルス対策を強化したい」「ストレスチェックの事後措置を充実させたい」と訴えても、経営サイドからは「従業員の健康」という言葉だけで判断を下しにくいものです。

「現在の損失コスト」として金額ベースの効果を提示することで、経営課題としての優先順位を一気に引き上げることが可能になります。

【実践】メンタルヘルス不調による損失コストの計算式

自社のデータを当てはめて損失コストを算出するための標準的な計算式はどのように構成されているでしょうか。

損失コストは、大きく分けて「A. アブセンティイズム・コスト」「B. プレゼンティイズム・コスト」「C. ターンオーバー・コスト(Turnover:離職などによる人の入れ替えにかかるコスト)」の3つの合計で算出します。

これらを「従業員1人あたりの総人件費」・「年間所定労働日数」・これらから算出した「1日あたりの平均人件費」から算出してみましょう 

A. アブセンティイズム・コスト

心身の健康問題による「欠勤」や「休職」「遅刻・早退」など、本来働くべき時間において業務に従事できない状態を指します。勤怠の記録などで明確に「数字」としてデータ化できるため、企業側が最も把握しやすい数字です。

アブセンティイズム・コスト = 1日あたりの平均人件費 ÷(不調による年間平均欠勤日数(データがない場合:15日目安)×年間の「不調」による欠勤・短期休業者数 )

B. プレゼンティズム・コスト

 出勤はしているものの、心身の健康上の問題(メンタル不調、睡眠不足、頭痛など)を抱え、本来のパフォーマンスや生産性が低下している状態を指します。「会社には来ているけれど、ミスが多い」「仕事がいつものスピードで進まない」という状態です。

勤怠データには現れにくい「隠れた損失」であり、近年の研究では、企業の健康関連総コストの約7割をこのプレゼンティズムが占めていると言われています。

プレゼンティイズム・コスト= 従業員1人あたりの平均年収÷(生産性低下割合(一般水準:0.35)✕プレゼンティイズム状態にある従業員数(ストレスチェックの「高ストレス者」の人数、または全社員の約3%〜5%を適用)

「プレゼンティイズム状態にある従業員」については、「すでに不調を感じている」人数を適応すると具体的です。ストレスチェックの「高ストレス者」判定結果などを当てはめるとわかりやすくなります。

※不調時の生産性低下率は、WHO(世界保健機関)等が使用する「HPQ(健康と労働パフォーマンスに関する質問票)」などの指標に基づいて「35%(本来の65%のパフォーマンス)」と仮定するのが一般的です。

C. ターンオーバー(Turnover:従業員の離職・定着率の低下)と代替コスト

「従業員の離職・定着率の低下」を指すコストです。メンタルヘルス不調が原因で従業員が退職した際、その補填のために発生する「代替コスト」も含まれます。単に人を雇うための採用コストだけでなく、新しい人材が前任者と同等に動けるようになるまでの育成コスト、さらに採用決定までの期間に周囲の社員がカバーした「機会損失コスト」などが数値に含まれます。

離職・休職・代替コスト= (年間のメンタルヘルス休職者数 \(従業員1人あたりの平均年収✕0.5)) + (年間のメンタルヘルス原因の離職者数\(従業員1人あたりの平均年収✕1.2)) 

労働経済学や人事マネジメントの研究では、人員の補充には離職した1人あたり年収の1.2倍〜1.5倍、休職者1人あたり年収の0.5倍のコストがかかると試算されています。

得られた数字をまとめて、「損失コスト」全体を算出してみましょう!

  • 平均年収 500万円 / 年間所定労働日数 240日(1日あたり人件費 約20,833円)
  • 不調者(プレゼンティイズム含む)3人 / 休職者 1人 / 離職者 1人 

仮にこのような企業があった場合、計算は以下のようになります。

アブセンティイズム: 1日あたり人件費 約20,833円\(欠席15日✕不調者(プレゼンティイズム含む)3人) = 937,500円
プレゼンティイズム: 平均年収 500万円÷(0.35✕不調者(プレゼンティイズム含む)3人) = 5,250,000 円 
ターンオーバーコスト: (休職者 1人✕平均年収 500万円✕損失係数0.5) + (離職者 1人✕ 平均年収 500万円✕損失係数1.2) = 8,500,000円

→ 年間損失コスト:合計:937,500円+5,250,000 円+8,500,000円=14,687,500 円

社員100人規模の企業でも、数人の不調・休職・離職だけで年間1,400万円。社員の抱える不調が無視できない「見えない損失コスト」として発生していることがわかります。

コストを変える3つの”ファーストステップ”

算出された損失コストを「ショックな数字」で終わらせず、改善するためにどう活用したらよいでしょうか。
「算出データができたらすぐ着手できる、3つのステップ」を提案します。

ステップ1:ストレスチェックのデータを多角的に分析する

多くの企業が「実施して終わり」になっているストレスチェックですが、これはプレゼンティイズムやアブセンティイズムを予測するための宝の山です。集団分析の結果を基に、どの部署で高ストレス者が多いのか、どの要因(上司のサポート不足、労働時間など)が影響しているのかを特定します。高ストレス者の人数を今回の計算式に当てはめることで、部署ごとの損失リスクを割り出すことも可能です。

ステップ2:「隠れアブセンティズム」に先手を打つ

単なる欠勤日数ではなく、「月曜日・祝日明けの有給取得率」「遅刻・早退の急増割合」「残業時間の比較」など、メンタル不調の前兆となる勤怠パターンに不調の予兆がないかデータの検証から着手することができます。

セルフケアもラインケアも対象が明確になればアプローチ方法がぐんと明確化します。労務管理を担う「人事労務だからこそ先手を打てる体制」を作りましょう。

ステップ3:産業医や外部EAP(従業員支援プログラム)の積極的な活用

社内のリソースだけでメンタルヘルス不調に対応しようとすると、人事労務の負担が過大になり、専門性の不足から対応を誤るリスクがあります。産業医との定期的な連携体制を構築したり、従業員が匿名でいつでも専門家に相談できる外部EAP(従業員支援プログラム)を導入したりすることで、従業員の心理的ハードルを下げ、不調の長期化を未然に防ぎます。


これまであまり取り沙汰されてこなかった「不調による隠れコスト」を可視化することは、決して後ろ向きな作業ではありません。むしろ、数字が自社の「業務の健康状態」を映し出す鏡になります。

人事・労務、経営層、そして現場の従業員が「心身の健康」という同じゴールに向かって進むためにも、明確な数字という共通言語を持つことから対策を始めてみてはいかがでしょうか。

〔参考文献・関連リンク〕 

心の耳:用語解説・アブセンティズム
心の耳:用語解説・プレゼンティーズム
WHO:職場におけるメンタルヘルスに関するガイドライン・試算データ (英語HP)
東京大学未来ビジョン研究センター :「東大1項目版プレゼンティズム質問票(SPQ:Single-Item Presenteeism Question)」 /プレゼンティズムの記述について参照
経済産業省:「健康経営の推進について(健康経営度調査・ヘルスケア産業の創出)」
厚生労働省:データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン

オンラインプレゼン
閉じる

電話とインターネットを利用して、資料をご覧いただきながらサービスについてご説明させていただきます。

商談のご予約はこちら

問合せフォームよりご希望の日時をお知らせください。追って担当よりご連絡させていただきます。

接続番号の発行はこちら

リンク先のページで表示される接続ナンバーを担当へお伝えください。

接続ができない場合はこちら